艶やかで、それでいて自然に溶け込む大らかさがある。
そよ風のような空気をまとう、色彩ゆたかな器たち。
まるで珊瑚が広がる海のなかのような景色もあれば、
春の野原を遠くから眺めているような郷愁も感じる。
不思議な魅力を放つ、
陶芸家・神谷麻穂さんの器を紹介します。
やわらかな色彩、独自のテクスチャー
富山県で作陶する神谷麻穂さんの器は、やわらかな色彩と独特のテクスチャーを特徴としています。友禅のような上品な色合い、輝きをまとうパステルのまばゆさ。心象風景を描いた抽象画が描かれた絵皿には、実にさまざまな技法が使われています。
大学で工芸美術を学んだ後、産地で九谷焼の技術を身につけた麻穂さん。釉薬を重ね、ただ塗りつけるのではなく垂らしたり散りばめたり、その上に絵付けを重ねたり、金彩やパールを施したり。一枚ずつ異なる表情は見ていて飽きません。
轆轤(ろくろ)を引いて作った石膏型に、通常の湿った土のほか、そぼろ状の乾いた土を重ねる珍しい手法を用いることで、土ざわりを感じる質感に仕上げています。さらに刷毛で砂をかけたり、別の土を埋め込んで象嵌を施したり、時には削り出して形を整えたり。さまざまな技法を用いることでオリジナリティのある作品に仕上げています。
「自然のものが一番美しいから」と麻穂さん。
作品は自然の美をモチーフにしており、実際に自然の産物から型をとったものもあります。
この作品、何をモチーフにしているか分かりますか?
自然の形が一番うつくしい
答えは「かぼちゃ」!
この「茶碗こかぼちゃ」は実際にかぼちゃから石膏型を取って作っています。手に取ると見た目以上にかぼちゃ感が伝わって、なんとも楽しく面白く、あたたかな気持ちになります。そして上から見るとゆるやかな三角形になっていて、自然界の造形美に感心させられます。内側はカラフルな色を塗り重ね、覗き込むと吸い込まれそう。
他にも煌びやかな小鉢を裏返すとかぼちゃの頭の形をしていたり、ナスのヘタを象った片口があったり。ユニークな発想から生まれた形状はしっくりと手に馴染み、自然と人の暮らしは繋がっているんだなと気づかせてくれます。
心潤すアートなうつわ
表現力が豊かで、凝縮された美が心のなかにグッと入りこんでくる。良質なアートを鑑賞した時のように、心を潤してくれる。神谷麻穂さんの作品は暮らしの道具でありながら、ぎりぎりのところまでアート要素を盛り込んでいて、その境界を歩く楽しさを味わえます。
ざらざらした土の感触やでこぼこした表面、真っ直ぐではないライン、繊細な絵付けや釉薬の風合い。複雑な要素が散りばめられ、器としては使い勝手がいいとは言えないかもしれません。けれど、心を潤す器は日常をゆたかに変えてくれます。アートは心の栄養。この器に美味しい料理を盛り付けて食卓に並べたら、心も体もどちらも一度で満たされてしまう。一石二鳥とはまさにこのこと。とても贅沢な心地になる器なのです。
日々の暮らしのなかでさりげなく使うものよし、ハレの日の席を華やかに盛り上げるのもよし、誰かを心から祝福したい時の贈り物にもよし。
日常にアートが必要!
そう感じている方にこそ、ぜひ取り入れてほしい器です。
趣ある民家をリノベーションした、麻穂さんの自宅兼工房にて撮影。作品が並んでるのはベビーベッドの上!まだ0歳(取材時)の赤ちゃんを含む、幼い3人のお子さんの子育て真っ只中。育児と両立しながら創作に打ち込む麻穂さん、その大らかさや芯の強さがたおやかな作品に表現されているんだなと納得した風景でした。
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